お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
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サイラスは大きくため息をつく。

自分ばかりが矢面に立たされることに、不満は尽きない。
たしかに悪事には手を染めたし、自分が全く悪くないとは言わない。

だがもう生活は落ち着いたし、今後はオードリーという新しい妻をもらい、オルコット子爵家の財産もある程度自由にできる目途が立っている。
これ以上の罪を重ねる必要が、サイラスにはないのだ。

(輝安鉱の採掘から抜け出せるならば、何でもやってやる。第二王子が死ねば、マデリン王妃もアンスバッハ侯爵も、もう毒殺したい人物はいないはずだ。きっとこれで終わりにできる。……きっと)

サイラスはそう自分に言い聞かせ、自然に震えてしまう手に力を籠める。

やがて、新たな食事が運ばれてくる。
イートン伯爵が自慢するだけあって、今回の料理はどれも舌を巻かせる絶品ばかりだ。
夜会で毒が原因で王子が倒れれば、真っ先に疑われるのは料理人だ。きっとすぐ捕まり、処刑されてしまうだろうけれど。

(死なすには惜しい料理人だがな)

そう思いつつも、サイラスはアイザック王子の隙を伺っていた。


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