お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「少し夜風を浴びませんか。ウィストン伯爵。造幣局の視察以来ですし、あの時の記念硬貨、お調べになったのでしょう? 考察もお伺いしたい」
「は、はあ。あれはですね。金属の配合比率を研究していたときに作ったものが流出したのではないかと……」
ウィストン伯爵は、焦りながらも弁明を始める。
ザックはわざと見せびらかすようにケーキの皿をもったまま、テラスへの扉を開いた。
夜風が吹き付け、火照っていた肌を冷やしていく。
「そ、それよりおいしい食事でしたな。イートン伯爵がご自慢になるのも分かります」
「そうですね。王宮の料理人にもなれそうな腕前だ」
「おや、アイザック様もお気に召されたようですね」
ははは、と笑いながらも、ウィストン伯爵は目が泳いでいる。
何度もザックが手に持つ皿とフォークの間を行ったり来たりするので、アイザックは呆れてしまった。
これでは皿かフォークになにかあると言っているようなものだ。慎重というよりは、小心者なのかもしれない。
(……アンスバッハ侯爵が、本気でこの男を手駒にするだろうか)
ふいに、ザックの頭にそんな考えが浮かんできた。
アンスバッハ侯爵は長年国の重臣として権力を固辞してきた。時に父である国王を制するほどの圧さえある。そんな男が、命運を分ける相手としてこんな小物を選ぶだろうか。
ざわざわと胸の奥に嫌な予感が沸き上がる。
「は、はあ。あれはですね。金属の配合比率を研究していたときに作ったものが流出したのではないかと……」
ウィストン伯爵は、焦りながらも弁明を始める。
ザックはわざと見せびらかすようにケーキの皿をもったまま、テラスへの扉を開いた。
夜風が吹き付け、火照っていた肌を冷やしていく。
「そ、それよりおいしい食事でしたな。イートン伯爵がご自慢になるのも分かります」
「そうですね。王宮の料理人にもなれそうな腕前だ」
「おや、アイザック様もお気に召されたようですね」
ははは、と笑いながらも、ウィストン伯爵は目が泳いでいる。
何度もザックが手に持つ皿とフォークの間を行ったり来たりするので、アイザックは呆れてしまった。
これでは皿かフォークになにかあると言っているようなものだ。慎重というよりは、小心者なのかもしれない。
(……アンスバッハ侯爵が、本気でこの男を手駒にするだろうか)
ふいに、ザックの頭にそんな考えが浮かんできた。
アンスバッハ侯爵は長年国の重臣として権力を固辞してきた。時に父である国王を制するほどの圧さえある。そんな男が、命運を分ける相手としてこんな小物を選ぶだろうか。
ざわざわと胸の奥に嫌な予感が沸き上がる。