お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
レイモンドは迷った。自分ひとりならば強行軍で途中野宿でも行けるが、ロザリー連れではそうもいかない。
だが、レイモンドはロザリーのこの子犬のような目に弱い。今だ半信半疑だが、彼女の前世が犬のリルだと知ってからは、特にそうだ。ましてそれを知っているのが自分だけということもあって、彼女には保護者的な感覚を持ってしまっている。
結局、レイモンドは迷いに迷って決断した。
「……自分の宿代は自分で出せるか? そこまで面倒は見れないぞ」
「いいんですか?」
「連絡が取れなくて不安な気持ちはわかる。もしオードリーに誤解されたときは、フォローしてくれると約束してくれるなら、一緒に行こう。乗合馬車を乗り継いでいくことになるが、いいな?」
「もちろんです!」
ロザリーは色めき立ったが、そこで悲鳴のような声を上げたのはチェルシーだ。
「ちょっと待って。レイモンドの料理とロザリーの失せもの探し、両方無くなったらこの宿はどうなるのよ!」
チェルシーにしてみれば、切り株亭は十六のときから働いている宿屋だ。ここが無くなるのは嫌だ。まして、レイモンドがいないうちにそんなことになったら、耐えられない。
「チェルシー、大丈夫だよ。親父やおふくろも戻ってくるし、ランディは筋がいい。今日の賄いのスープだってうまかったろ」
「そうだけど」
「それに、宿に関してはチェルシーがいるから安心してる」
信頼のこもったまなざしを向けられれば、チェルシーがそれ以上反論できるわけがない。
顔を真っ赤に染めたチェルシーは「……ずるいわよ、レイモンド」と誰にも聞こえないような声でつぶやいた。