お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「改めて紹介しよう。俺の義理の父親であるアランと、母親のティナだ」
ティナも、ロザリーには記憶がある。レイモンドとよく似た面差しの、優しい女性だ。掃除や洗濯など、今チェルシーがメインでやっている仕事をやっていた。
「チェルシー、ランディ、迷惑かけてごめんなさいね。それにあなたが手紙に書いてあった……」
「はじめまして、ロザリーです!」
元気に挨拶すると、ティナは孫娘でも見るように顔を緩ませ頭を撫でた。
「かわいいわねぇ。よく働いてくれているそうね。ありがとう」
子供のような扱いではあるが、ロザリーは頭を撫でられるのは好きだ。うれしくてお尻がムズムズしてしまう。
「それと、こっちが祖父母だ。ふたりには二階の個室を使ってもらうことにする」
足が不自由だというレイモンドの祖父は、タンカで運ばれてきた。大分具合がよくなったと見える祖母が、労わるように付き添ってくる。
「あら、可愛らしいお嬢さんたちだこと」
祖母は、ロザリーとチェルシーを見てなぜか目をきらりと輝かせ、指を小刻みに動かした。
「ああ、ばーさんは針子なんだ。こっちでも仕事を請け負うから、仕立て屋が出入りすることもあるが頼むな」
「お針子さん……。そうなんですね! こちらこそ、よろしくお願いします」
ロザリーとチェルシーが揃って挨拶する。祖父のほうはちらりとこちらを向き、仏頂面をして見せようとしたが、孫よりも若いふたりの娘にいかめしい顔にもなり切らず、ゴホンと咳ばらいをした。
微笑ましくそれを眺めていたレイモンドは安堵のため息をついた。
「これで、人手は足りるはずだ。じいさんとばあさんがいる生活に慣れたら、俺は王都へ向かう」
「わ、私も行きます!」
「そういうわけなんだ。親父。切り株亭のことは頼む」
数か月前に手紙で託された切り株亭を、仕返しのように託し返す。
アランは困ったように笑いながら、「お前の料理がないんじゃちと厳しいがな」と笑った。