お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。


切り株亭を仕切るという意味合いにおいて、長年の経験のあるアランはレイモンドよりも上だ。ランディが料理の腕前を考慮し、自分との役割分担を決め、徐々にレイモンドを調理の場から外していく。
おかげで二週間後には、レイモンドなしでも食堂が回るようになった。

宿のほうはティナが戻ってきたことで格段に楽になり、祖母が仕立て屋の夫婦から洋服直しの仕事を定期的にもらえることになったため、収入の面でも問題はない。
失せもの探しはしばらくお休みしますと貼り紙を出し、準備は万端だ。

ようやく、ロザリーとレイモンドがアイビーヒルを発つ日がやって来る。オードリーの手紙が届いた日から、すでにひと月ほどが経っていた。

ふたりとも金銭にそこまで余裕が無いので、最低限の荷物を大きなスーツケースにまとめて、乗合馬車で移動する予定だ。

「無理しないで、困ったら戻ってくるのよ。きっと、大丈夫だからね。……お貴族様とはいえ、ザック様ならって信じていたのに。ああもう、ロザリーのことを遊びだったなんて言ったら殺してやるわ」

物騒なことを言うのはチェルシーである。
とはいえ、それが冗談であることくらいは、みんな分かっているのだが。
姉気分になっているチェルシーは、かわいがってきた妹分が王都に出ていくことが心配でならない。
< 34 / 249 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop