お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
翌日、朝一番の乗合馬車に乗り、一路王都を目指す。昨日から馬車に乗り続けているのでお尻が痛くなっていた。
「大丈夫か?」
何度か座り直しをしていると、レイモンドが気遣うようにのぞき込んでくる。
「大丈夫です。でもずっと乗ってるだけも退屈なので、なにかお話しましょうよー」
「なにかって……言われてもな」
どちらかと言えば口下手な質のレイモンドは困ったように首を掻く。
「そうだ! オードリーさんを好きになったきっかけとか知りたいです。だって子供のころからずっと好きなんてロマンチックです! レイモンドさんがそんなに一途だなんて!」
女子としては楽しい話題だが、レイモンドはあからさまに嫌そうな顔をした。
「……そんなの知ってどうするんだ」
「どうもしませんけど。えっと、そうですね。応援する気持ちがもっと強くなります!」
「それで俺にメリットあるのかよ!」
「ええー。でも、私が……リルのころからもう仲良かったですよね」
リルの名前が出たら、少し表情が柔らかくなった。レイモンドは子供の頃、リルをとてもかわいがってくれていたのだ。
「そりゃ……オードリーとは幼馴染だからな。おふくろが再婚する前は、オードリーんちの隣の家に住んでたんだ。実際にふたつ上だから、姉貴みたいなもんだったんだけどさ」
遠くを見るような目をして、レイモンドが口元を緩める。なんだかんだと思い出モードになったようだ。