偽装結婚ならお断りです!? ～お見合い相手はイジワル社長～

　フンッと知らんぷりをして、顔をパソコンに戻す。そのまま作業を続けよう……としたけれど、同じ部屋に真史さんがいると気が散って仕事に集中できない。真史さんが相良部長のところに移動するのをこっそり目で追うと、開発事業部に何しに来たのよ？と聞き耳を立てた。

「今度オープンの新店舗、ここから応援に行くのは誰に決まった？」

　え？　何？　何故わざわざここに来て、それを聞くの。そんなの内線電話一本で済むことじゃない？

　顔を上げると、真史さんの背中を見つめる。

「ああ、それでしたら高坂に。伊勢フェアの責任者みたいなものですから」

「ふ～ん、高坂ね」

　私では役不足とでも言いたいのか、真史さんのそっけない返答に悲しくなる。ジロッと視線を投げられて、慌ててパソコンに向き直った。

　急にこっちを見ないでよ……。

　あわや目が合う状況に、私の心臓はバクバク音を立て激しい動悸に見舞われる。

　落ち着け。7落ち着くのよ、私。

　ここは開発事業部。さすがの真史さんでも、そう簡単に声はかけられないはず。

　そう高をくくって安心していたけれど、世の中そんなに甘くない。真史さんの方が一枚上手で、とんでもないことを言い出したから驚くほかない。