皇帝の胃袋を掴んだら、寵妃に指名されました~後宮薬膳料理伝~
この村には宿がない。
だからてっきり通り過ぎるだけで別の村まで行ったのだと思ったけれど昨晩はどこに寝所を確保したのだろう。
「市場にはご案内しますし、よろしければ私が料理も手伝いますが……。あの、昨晩はどちらに……」
疑問の感情そのままにぶつけると、博文さんが自分より背の高い玄峰さんにちらりと視線を送った。
そしてふたりは視線を合わせ、声にならない会話を交わしているようだ。
「少し失礼します」
「えっ? な、なんなんでしょう……」
扉の向こう側で話していたふたりが粗末な家屋の中に足を踏み入れ、さらには玄峰さんがあんなに閉めにくい扉を一発でぴしゃりと閉めるので、これはもしや焦眉の急ではないかと息をすることも忘れる。
聞いてはいけないことを尋ねたのだろうか。
顔をこわばらせて一歩二歩あとずさりすると、博文さんが再び口を開いた。
「玄峰、やはりお前は顔が怖いようだ。麗華さんの腰が今にも抜けそうではないか」
「あいにくと生まれつきなものでな」