お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
サロンを出ると、お迎えの車が停まっていた。漆黒に光るボディの、やたら車体の長い高級車――これがリムジンなのだろうか?

運転手とは別に、もうひとり品のいいスーツ姿の男性が待っていて「お迎えにあがりました」と恭しく挨拶をしてくれた。

「彼は千堂家専属の使用人の田中さんだ」

「し、使用人……」

本当に家に使用人がいるんだ……と浮世離れした単語に妙な緊張感を覚えながらも、軽く背中を傾けて挨拶する。

本当はもっと深く頭を下げようとしたのだが、着物の帯が邪魔で上手く身動きがとれなかった。

そんな私をよそに、使用人の田中さんは馴らされた角度で綺麗に腰を折り曲げる。

私たちは車に乗り込んで、都内にあるホテルへと向かった。

地下駐車場で車を降りた途端、大勢のスタッフが頭を下げて一列に並んでいるのが目に入り、私はびくびくっと身を竦めてしまった。

ホテルって、お金持ちのお客様が相手だとこんな待遇をするんだなぁ……。

柊一朗さんからしたら見慣れた光景なのだろうか、顔色ひとつ変えず、平然としている。
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