お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
もやもやとする私の心中を察したのか、この女性が立ち去ってすぐ、柊一朗さんは私の耳元にささやきかけた。

「気にするな。君が若くて綺麗だから、嫉妬しているんだ」

そうだといいなぁと思いながらも、すぐさま次の客人がやってきて、柊一朗さんに話しかける。次。そしてまた、次。

どんな相手が来ても柊一朗さんのペースは乱れることなく、完璧な対応を見せてくれる。

その振る舞いは、普段の飄々としたものではなく、経営者一族の跡取り息子としての風格が漂っていた。

見ているこちらが息苦しくなるほど、彼の所作には隙がない。

「……柊一朗さん?」

思わず不安になり、声をかけると。

「ん? 澪、なんだい?」

私へ向ける笑顔は、いつも通りの優しいものだけれど、言葉使いが普段とはちょっぴり違う気がする。

「……お知り合い、たくさんいらっしゃるんですね」

「挨拶ばかりさせて、すまない。私も、こういう堅苦しいのは本当に気が滅入るのだけれど」

彼が私の前で、自分のことを『私』と称した瞬間、いつもの彼でないことがわかった。

今の彼は、千堂家の跡取り息子としての彼なんだ。あるいは、日千興産の専務だろうか。スイッチが入っていることは確かだ。
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