お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
なんとか逃げ出せないだろうか……? 考えを巡らせるけれど、走ったところで振り切れないし、いずれにせよ、着物姿じゃ走れない。

椅子でも投げつけてみる? ううん、逆上した常務になにをされるかわかったものじゃない。

常務はこちらへゆっくりと歩みを進めながら、おもむろに胸元から携帯端末をとり出して、どこかへ電話をかけ始めた。

「……私だ。社長の到着はまだか。――ああ。――では、会場ではなく、客室に来るように伝えてくれ。大切な話がある。一七〇九号室だ」

電話を切ると、私の顎を太い指でぐいっと掴み上げ、乱暴に顔の前へ持っていく。

「お前の正体を社長に暴露してやる。日千興産を陥れようとした腹黒い女が、息子をたぶらかしていると」

ドクン、と心臓が音を立てる。もしも私がセクハラ事件を公にしようとした張本人であると知られたら、柊一朗さんのお父さまはどんな顔をするだろう。

絶望? 落胆? それとも憤怒?

日千興産の幹部にとって、ましてや社長にとって、会社を危機的状況に追い込んだ私は、憎むべき敵だ。

そんな女性が次期社長となる柊一朗さんの婚約者だったなんて、受け入れられるはずがない。

むしろ、二度と柊一朗さんに近寄るなと、拒絶されるだろう。
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