お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
会場に足を踏み入れた途端、柊一朗さん目がけてたくさんの客人たちが挨拶をしにやってきた。

そのひとりひとりに、彼は丁寧に言葉を交わしながら、そして私も、一緒になって笑顔と会釈で応じながら、会場の奥へと歩みを進めた。

やがて、藤色の訪問着を纏った女性が私たちの元へやってきた。

その顔を見てハッとする。柊一朗さんのお母さまだ。

久方ぶりに顔を合わせた夫人は、私と柊一朗さんの姿を見てふんわりと微笑んだ。

「柊一朗さん。総一さんの代わりにスピーチをしてくれてありがとう」

お淑やかな、気品漂う声。こんなに騒がしい場でも、その声だけは凛と耳に響く。これも社長夫人としての品格なのかもしれない。

「澪さんも。お久しぶり」

「お久しぶりです……お母さま」

出来るだけ丁寧に腰を折ってお辞儀した。

『お母さま』と呼ばせてもらったのは、他に呼び方を思いつかなかったから。

『柊一朗さんのお母さま』ではちょっと長いし、『おばさま』じゃ失礼だし。『千堂夫人』と私が呼ぶには違和感があって。

けれど、お母さまは頬を緩ませ、うれしそうに声を跳ね上げた。
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