お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
「あ、あの、スーツのジャケット、クローゼットにかけておきました。私のカーディガンも一緒にかけていいですか?」

慌ててまくし立てると、彼は緩く首を傾げ、思わせぶりに私の頬に触れた。

「どうしたの? そんなに焦って。なにか悪いことでもしてた?」

ドキン、と心臓が大きく跳ねる。

大丈夫、今の言葉に深い意味なんてない、ただからかっているだけだ。

わかっているのに、鼓動がバクバクと激しく胸を打ち鳴らしていて、止まらない。

「……なんでも、ありませんよ?」

けれど彼の目を見て答えることは出来なかった。

彼の正体に気づいてしまったことと、自分の正体を隠していること、両方がうしろめたくて。

「……嘘だ。なに考えてた? 俺の目を見て」

綺麗な瞳が私の奥底を探るように見つめてくる。

その瞳が私の正体を見抜くのは、時間の問題かもしれない。

私の顔はそれなりに広く知られているはず。なにかのきっかけで、あのときの女性が私だって、思い出すかも。

怖い。これ以上関係を深めたら、真実を知られたときの傷が深くなる。

彼に憎まれるのがつらい。だったら、最初から近づかない方がいいんじゃないだろうか。
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