寂しさは他で埋めるから
「まりあ、最近全然来ないじゃん。昼の方忙しいの?」

目線が合えば合うで怖いのだけれど、頭上から声がかかっても随分と威圧感がある。

朝日という愛称でキャストたちから慕われている我妻さんのことが、正直私は苦手で仕方がない。

180を超える体躯はガッシリと骨太で、両手足にはそう簡単には落ちないであろう量の筋肉が蓄えられている。
そのいかついガタイに加え彫刻レベルで整った目鼻立ちはどう頑張ったって目で追わずにはいられない。
黒目が99パーセント露出している並行二重の瞼、分厚い唇、綺麗に筋の通った鼻。
昨今流行りの塩顔からは程遠いけれど、きっと曾祖母の代まで遡ったって誰もが認める美形であることに変わりはない。

その整い過ぎた容姿に劣等感を抱かずにはいられないし、まっすぐ目を見て話す癖もピンと張られた背筋も、ハキハキとした喋り方も、そのすべてが自信に充ち溢れているように思えてどうしたって苦手意識を抱いてしまう。

「いずれは昼一本にできたらいいなと思っているので」

そう私が答えると、「ふうん」と我妻さんは真っ直ぐこちらを見下ろしたままで相槌を打つ。

「とりあえず、こっちではいくら稼ぎたいん? 時間調整したるよ」

いくらくらい……。私は少し考えてから、両手を彼の前に差し出した。
10。

昼職はフルタイムで週5入ったところで月収10万いくかどうか。
愛知県の最低賃金に交通費とか能力給とか調整手当がついてくる程度。

それだけではさすがに足りないけれど、かといって昼職を削ってまで夜に入るのもなんか違うと思っている。

「そっかぁ。それなら今の調子でいいんだけどさあ」

おーいこっち見ろー、と言われて私は仕方なく我妻さんを見上げる。
我妻さんは直立のままでこちらを見下ろしていて、これから説教されるということがハッキリと分かってしまう構図だ。

「まりあ、アンケートは良いんだよなあ。見る? おまえの」

この話をするために事務所から持ってきたらしい。
ファイルの中からごそっと取り出されたのは、帰りがけにお客様に書いてもらっている簡易アンケートだった。

五段階評価に丸を付けてもらって、その下の自由記入欄に何かメッセージを残してもらえる形式。

大抵のお客さんは酔っ払っていたりその後に予定が入っていたりするものだから五段階評価に丸を打つだけで帰ってしまうそうだけれど、それでも自由記入欄にはそれなりにメッセージが添えられていた。

「フェラがテクい!」「可愛らしくて品のあるお嬢さんでした」「話しやすい。また指名したい」「色気がすごい」「細身好きとしては大当たり」

評価はすべて3より上。
デリヘル経験もあるのだから当然と言えば当然なのだけれど、それでも数字を見て少しだけホッとした。
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