寂しさは他で埋めるから
「でも本指名が返って来ないんだよなあ。何でだと思う?」
我妻さんに言われ、私は首を傾げた。
自分で考えてみ、ということだとは思うのだけれど、そんなことを一々顧みるのも面倒だった。
自己否定をしなくてはいけないことが苦痛。自分の悪いところなんて考えるのも嫌だった。
「まりあさあ、名刺ちゃんと渡してる?」
我妻さんに言われ、私は「ああ」と頷いた。
「渡してません」
そう簡単に答えてからそう言えば最初の時に言われていたなあと思い出した。
待機室には名前の欄だけ空白になっているお店の名刺が置かれていて、その空白に自分の名前とメッセージを添えて来てくれたお客さんに手渡すようにと新人教育の際に言われていた。
お客さまがお帰りになる前に一瞬待機室に寄ってそれを書いてお見送りの前にお渡しをして「また来てね!」と名前をアピールする。
このお店じゃなくてもそれは当たり前のことだったし、前のお店でもウンザリするほど名刺に自分の名前と似顔絵を描きまくっていたけれど。
「ええ、何で。名刺渡すだけで全然変わるよ?」
別に怒るわけでも責めるわけでもなく、それでも信じられないというような調子で我妻さんといのりが私を見る。
「いや、だって別に来てほしくないし」
本心からそう思っていた。
最初の頃はちゃんと名刺を渡していた。
本指名がほしかったし、できればまた会いたいなあなんて思えるほど会話が弾むお客さまだっていたし、意外と相性が良い人だっているものだから私だって戻って来てほしかった。
けれど良客ばかりでもないというか、8割がたはクソ客。
キャンパブだって分かって入って来たクセに本番交渉を始めるわ本番強要を始めるわ、指入れオプションの料金も払っていないくせに「ヌルヌルだねえ」とか言って勝手に指を入れて来るわ。(しかもそれ私の愛液じゃなくておまえがクンニした時の唾液だからな)。
AV顔負けのガシマンで出血したというのに「え、生理中なのに指入れありにしたの?」と露骨におしぼりで指を拭き出す客。
いや確かに血液は不衛生だし性病は流行っているし拭くに越したことはないけれど、待合室で爪切っていないおまえが9割くらい悪いんだよ。
何こちらを汚いもの扱いしているんだよ。爪くらい切れってAV男優も言っているだろうよ。
色んなお客さまがいて、その一人一人に神経を磨耗して、もうこっちから「来なくていいです」という気持ちでお見送りをすることが増えていき、そのうち名刺を渡すことが億劫になっていった。
「次があったら絶対本番してくるじゃないですか。恩着せがましくやって来て生挿入」
私の言葉に「あー、ねえ」といのりが苦笑いを浮かべる。
半分以上は同意しますというように我妻さんの肩越しに頷いてくれているのだけれど、我妻さんはいのりのことはお構いなしで真っ直ぐ私を見たままでいる。
「いや、そういう客はボーイ呼べば良いからさ。とりあえず!」
勢いよく言われ、「な?」と同意を求められ、私は思わず座ったままで壁に後ずさってしまう。
「名刺は渡そう!」
ハッキリとした声で言われ、これ以上口答えができないと観念した私は、コクコクと無言で頷く他なかった。
我妻さんに言われ、私は首を傾げた。
自分で考えてみ、ということだとは思うのだけれど、そんなことを一々顧みるのも面倒だった。
自己否定をしなくてはいけないことが苦痛。自分の悪いところなんて考えるのも嫌だった。
「まりあさあ、名刺ちゃんと渡してる?」
我妻さんに言われ、私は「ああ」と頷いた。
「渡してません」
そう簡単に答えてからそう言えば最初の時に言われていたなあと思い出した。
待機室には名前の欄だけ空白になっているお店の名刺が置かれていて、その空白に自分の名前とメッセージを添えて来てくれたお客さんに手渡すようにと新人教育の際に言われていた。
お客さまがお帰りになる前に一瞬待機室に寄ってそれを書いてお見送りの前にお渡しをして「また来てね!」と名前をアピールする。
このお店じゃなくてもそれは当たり前のことだったし、前のお店でもウンザリするほど名刺に自分の名前と似顔絵を描きまくっていたけれど。
「ええ、何で。名刺渡すだけで全然変わるよ?」
別に怒るわけでも責めるわけでもなく、それでも信じられないというような調子で我妻さんといのりが私を見る。
「いや、だって別に来てほしくないし」
本心からそう思っていた。
最初の頃はちゃんと名刺を渡していた。
本指名がほしかったし、できればまた会いたいなあなんて思えるほど会話が弾むお客さまだっていたし、意外と相性が良い人だっているものだから私だって戻って来てほしかった。
けれど良客ばかりでもないというか、8割がたはクソ客。
キャンパブだって分かって入って来たクセに本番交渉を始めるわ本番強要を始めるわ、指入れオプションの料金も払っていないくせに「ヌルヌルだねえ」とか言って勝手に指を入れて来るわ。(しかもそれ私の愛液じゃなくておまえがクンニした時の唾液だからな)。
AV顔負けのガシマンで出血したというのに「え、生理中なのに指入れありにしたの?」と露骨におしぼりで指を拭き出す客。
いや確かに血液は不衛生だし性病は流行っているし拭くに越したことはないけれど、待合室で爪切っていないおまえが9割くらい悪いんだよ。
何こちらを汚いもの扱いしているんだよ。爪くらい切れってAV男優も言っているだろうよ。
色んなお客さまがいて、その一人一人に神経を磨耗して、もうこっちから「来なくていいです」という気持ちでお見送りをすることが増えていき、そのうち名刺を渡すことが億劫になっていった。
「次があったら絶対本番してくるじゃないですか。恩着せがましくやって来て生挿入」
私の言葉に「あー、ねえ」といのりが苦笑いを浮かべる。
半分以上は同意しますというように我妻さんの肩越しに頷いてくれているのだけれど、我妻さんはいのりのことはお構いなしで真っ直ぐ私を見たままでいる。
「いや、そういう客はボーイ呼べば良いからさ。とりあえず!」
勢いよく言われ、「な?」と同意を求められ、私は思わず座ったままで壁に後ずさってしまう。
「名刺は渡そう!」
ハッキリとした声で言われ、これ以上口答えができないと観念した私は、コクコクと無言で頷く他なかった。