貧乏姫でもいいですか?(+おまけ)
毎日があっと言う間に過ぎ、ここに始めてきたあの日からずっと朱鳥に会っていなかった。

早速向かううち渡廊に差し掛かったところで、向こう側から公達が歩いてくるのが見えた。

――あ、蒼絃さまだわ。

花菜は思わず扇で顔を隠すことも忘れて、歩み寄った。

「お久しぶりでございます、蒼絃さま」

「元気そうだね」

「はい。蒼絃さま、藤盛の家に足を運んでくださっているそうで、本当にありがとうございます」

宮中に来てから半月あまりが経つ。
忙しいのでまだまだ帰ることは出来ないが、手紙はまめにやりとりしていた。

受け取るのは主に父や母からの手紙であるが、小鞠からの手紙も入っている。

かわいらしい字のその手紙には、蒼絃が相変わらずそっと食材を届けてくれることが書いてあった。

「姫がいないことは寂しいだろうが、みな元気そうだよ」

そう言われて、ウッと返事に詰まった。

相変わらずふいに、とてつもない寂しさに襲われることがある。
ホームシックから抜けだすことはできていなかった。

ここでの暮らしが辛いわけでも楽しくないわけでもない。
ただ、時折寝付けない夜にふと我が家を思ってしまうのだ。
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