貧乏姫でもいいですか?(+おまけ)
――あの頭中将をあんな風に簡単に袖にしてしまうなんて。緑子が聞いたら目を見開いて怒るわ。

緑子じゃなくたって、ちょっと信じられないくらい贅沢な話よ。
彼が通ると女官たちが御簾の陰で鈴なりになって見送るというのに。
その人気ぶりを朱鳥は知らないのかしら?

『見た目の問題じゃないわ。妻にするのはひとりだけであるべきだし、誠実であることこそが結婚相手に必要なことよ』

朱鳥はそう言ったが、それは確かにそうだと思う。
恋する相手にとって、唯一無二の人でありたいと願う気持ちは花菜も変わらない。

でも、相手は頭中将。
この世にはあれほど素敵な人がいたのかと、感極まり胸躍る憧れの君である。

花菜としてみれば初恋を実感する間もなく恋は破れたことになるが、失恋のショックよりも、事の成り行きにただただ驚くばかりだった。

そんなことを悶々と思いながら、来た道を戻る。

今度は誰ともすれ違うことはなかった。
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