貧乏姫でもいいですか?(+おまけ)
その中にあって、ごく平凡な身なりをした花菜や小鞠は人目を引くこともなく、みるみる雑踏の中に溶け込んでいく。

「さあ、最初はこのおにぎりで資金を作るのよ」

小鞠の手を引いて、花菜が最初に向かった先は馴染みの食材を売る店だ。

「おじさん、買ってくれる? また持って来たわ」

店では干し魚や食材が並んでいる。
「おお、あんたかい。もちろんさ」

花菜は小鞠の背中から包みを取り出して、店主の親父に見せた。
中には大量の、花菜姫特製味噌おにぎりが入っている。

「あんたの屯食は人気だからね」

「ふふ、ありがとう。今日はすごい人ね」

「ああ、年末のかきいれ時だ。天気が良くてよかったよ」

ちょうど客がいないところだったので、いつものように世間話を始めた。

今年の秋は程よい晴天が続いたおかげで実りが多くてよかったとか、酒仙童子がまた悪さをしたらしいとか。

「そういえばその後、人鬼丸の噂はないの?」

「ああ、人鬼丸っていえば、いつだったか検非違使が血相変えて人鬼丸を追っていたらしいな。もちろんあいつらに捕まるような人鬼丸じゃない。山の中に逃げたって話だよ」

――山の中に逃げた?
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