紫陽花のブーケ


「あ、カタツムリ発見!」

緑の葉の上をゆっくりと這う、2匹の蝸牛を見つけた

幸いこの辺りは木の影で雨もほとんどあたらない

私は傘をたたんで静かに足元に置く

手に持ったお気に入りの一眼レフを構え、蝸牛と紫陽花が入る構図を考えながら、撮影ポイントを探した

―――この蝸牛達、兄弟かな、カップルかな?

そんな風に考えながらファインダーに集中していく
この無心になれる時間が、とても好きだ

子どもの頃は絵を描くのが好きだった

下手の横好きと言うやつでしかなかったけど

絵の参考に、資料として写真で残すようにしたら、だんだん懲りはじめて
気がつけば、筆がカメラに代わってた

心が赴くままに、好きなものにピントを合わせるだけだけど
写真は見返す度に、撮影したときの場面や思いも鮮明に蘇ってくる

そんな風に撮ってる瞬間から、思い返すひと時も含めて、カメラに関わる時間がとても好きだ

でも大人になると、撮影の機会は減り、ブラック化した職場では、貴重~な癒しタイムだった

だから部屋を出る時に、この撮影道具一式を持っていかないと言う選択肢はなかった

それに子どもが産まれたら、いっぱい撮りたい、撮ってあげたい…ということもあり

今までどちらかといえば風景中心だったけど、妊婦向け雑誌の『天使の一枚』特集を見てから、俄然やる気がでたのだ

私も必ずや『天使の一枚』をゲットしたい!

そんな野望を秘め、安定期のこのときに、わたしは運動も兼ねて撮影散歩を日課とすることにしたのだ



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