紫陽花のブーケ
接写モードにして、蝸牛にできるだけ接近し、動きがゆっくりな彼ら?に合わせ少しずつ移動する
シャッターを切りながら、紫陽花の花とのバランスがピタリとはまる構図を探っていく
そうこうするうちに雨が少しずつ弱くなり、辺りが明るくなってきた
花弁から落ちる雫にも時々柔らかく陽光が当たり、キラキラと反射してサンキャッチャーみたいに葉の上に光を反射した
雨が上がりかけの霞がかった葉や花に、光の粒がゆっくりと舞う神秘的な光景に、ファインダーから目が離せなくなる
もう少し引きで撮りたくて、画面を見ながらかかとを後ろに踏み出した時、
―――あれ?
あると思った地面を踏めず、そのまま体が仰向けに傾き出す
―――まずっ!倒れる!!
恐怖に見開かれた眼が空を向きかけた時、
「美季っ!」
焦ったように私の名を呼ぶ声に思考が止まった
私は頭が真っ白になり、傾いた体はそのまま緩い段差のある階段から離れていく…
と、倒れた体が固いものにぶつかり、それが地面ではないと気づいた瞬間、がっしりとした両腕に抱き留められた
直後、ため息ととも頭上に吐き出された声に、心臓が跳ね上がる
「はあ~…びっくりした」
―――どうして?
頭に浮かんだのは、ただひとつだけ
――どうしてここにいるの!?
そう聞きたいのに声にならなくて、はくはくと浅い呼吸を繰り返すばかりで
「美季?」
耳に気遣わし気な声を聴いた途端、胸が震え、やっと痞えがとれたみたいに声が出た、けど
「な、んで?」
それは掠れるほどの小さなもので、それ以上続けられなかった
代わりに、とばかり涙はとめどなく溢れ出し、私の前に交差された彼の腕にポタポタと落ちた