闇の果ては光となりて
「何よ、その呆れた視線は?」
怪訝そうに私を見下ろすツッキー。
「いえいえ、なんでもありません。さ、教室行こう」
慌てて首を左右に振り誤魔化した私は歩き出す。 
ツッキーに本当の事を伝えたら、何を言い返されるか分かったものじゃないもんね。

「野良猫で上手くやってけてるのね」
隣を歩き出したツッキーが、安心したように言う。
「まぁね。みんなが仲良くしてくれるから」
突然現れた私を自然に受け入れてくれてる野良猫のメンバーには感謝だよね。
「野良猫の溜まり場で寝起きしてるって聞いた時は、本当驚いたけどね」
「本当、その節はご心配をおかけしてすみませんでした」
冗談めかしてそう言えば、
「本当よ。私が聞くまで何も言わないなんて、薄情者よねぇ」
流し目で睨まれた。
ツッキーが言う様に、彼女に聞かれるまで私は何も言わず、野良猫のメンバーの送迎が続いた。
一週間後にしびれを切らしたツッキーに問い詰められ、事の顛末を話す事になったんだよね。
私としては、自分の事情にツッキーを巻き込みたくなくて話さなかったんだけど、そう言ったら無茶苦茶怒られた。

「エヘへ···ごめんね」
肩を竦め謝った私にツッキーは苦笑いを浮かべる。
「上目遣いに小首を傾けて可愛い振りしても、私は誤魔化されないからね」
「分かってるって。これからはしっかり報告するよ」
黙っていて無駄な心配をかけるのなら、先に話した方がいい事を、前回学んだから。
「それにしても、呑気な神楽が暴走族だなんてねぇ」
「それは私も実感ないよ」
まだ暴走にも連れて行って貰ってないし、抗争ってのも経験してないしね。
今の私にとって野良猫の溜まり場は、寝泊まりする家ってだけだもんなぁ。
「周りはそうは思ってないんだから、気をつけなさいよね。鬼夜叉も水面下で動いてるって話だし」
「うん、気を付ける」 
怖い目に遭うのはやっぱり嫌だもんね。
ツッキーの言う鬼夜叉ってのが、野良猫と対立してる暴走族で、卑怯な手段で野良猫のメンバーを不意打ちに襲撃したり、一般の学生達を狙ってカツアゲや脅したりと、なんとも質の悪い集団らしい。

『男なら正々堂々と戦えっての!』がツッキーの持論。
実家が武術道場を経営してるツッキーは、自分も武道を嗜んでいて曲がった事が大嫌いなんだよね。
だから、野良猫に入ったと白状した時はなんて危ない事をするのだとこっ酷く怒られた。
野良猫が街の治安を守ってる暴走族だとしても、やっぱり集団暴走や暴力沙汰を起こしてる辺りがツッキーには良いように思われてないんだよね。
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