闇の果ては光となりて
まぁ、私を拾って助けてくれた事で、ツッキーの持つ印象もだいぶと軟化してるとは思うんだけどね。
野良猫のみんなが居なかったら、今頃私はあの男に良いようにされて、人生を諦めて捨てちゃってたかも知れないんだもん。

他愛もない会話を続けながら教室につくと、既に大勢のクラスメイトが登校していた。
私とツッキーに視線を向けると、数人の女子達が何やら内緒話を始めた。
まぁ、こんなのいつもの事だ。
キツい口調のツッキーと、飄々としてる私はクラスの中でかなり浮いてる。
私が野良猫のメンバーに加入した事で、それは更に加速した。

「霜月、神楽ちゃん、おはよ」
この学校に入学以来、クラスで唯一話しかけて来るのはこの彼だけ。
黒い髪を爽やかにマッシュにカットして、64で左右に分け黒い眼鏡を掛けた彼はどう見ても真面目そう。
でも、驚く事に野良猫のメンバーの1人だったんだよね。
それを知ったのは、野良猫滞在2日目の事だった。
「ああ、佐田岬(さたみさき)、おはよ」
気怠げに髪をかきあげ声の主に目を向けたツッキー。
なぜかツッキーは、佐田君をいつもフルネームで呼ぶ。
「佐田君、おはよ」
やぁ、と手を上げる。
「今日は副総長の送りだったんだな」
窓から見てた、と苦笑いで佐田君はそう言った。
「あの人が来たら、飢えた女子達がお祭り騒ぎよね」
嫌悪を含んだツッキーの声。
「霧生はうちの一番人気だからねぇ」
総長よりも人気者なんだもんね。
イケメンでも怖い空気を醸し出す総長より、あわよくばお相手をしてもらえる霧生の方が圧倒的に人気があった。
私は総長は頼りがいあっていいと思うんだけどなぁ。
まぁ、あの人が優しさを向けるのは、自分の懐に入れた人間だけってのはあるけどね。

「その一番人気のせいで、神楽にとばっちりが来たら、承知しないわよ」
怒りを孕ませツッキーは佐田君を睨む。
いやいや、彼が悪い訳じゃないから睨まないであげて。
「その辺は俺達も警戒しておく。何かおかしな事があったらすぐに言ってよ、神楽ちゃん」
全般はツッキーに、後半は私に向かって言った佐田君は、ツッキーの睨みをもろともしていなかった。
うん、やっぱ野良猫の人なんだねぇ。

「じゃ、あの3年の女達には十分気を付けておいてよね。さっきも噛み殺す様な勢いで神楽を睨んでたわよ」
あぁ、ツッキーもあの人達の事見てたんだ。
「あ〜彼女達ね。周防君に警戒するように頼んでる」
「他力本願で、どうにかなるものかしらね」
やれやれと溜め息をついたツッキー。
周防君も野良猫のメンバーの1人で西高の3年。
「まぁまぁ、ツッキー、落ち着いて。文句を言われるぐらいどうってことないし」
「簡単に考えてると痛い目見るわよ。ああいう手合は嫉妬に狂って何をするか分かんないのよ」
あ、こっちにとばっちり来た。
「は〜い」
「気の抜けた返事をした神楽は、お昼休みに護身術の練習ね」
「えぇ〜そんなぁ」
眉をへの字に情けない顔になった。
この時、本当に軽く考えてた自分を恨む事になるのは、近い未来。
危険とは何時だって背中合わせだったんだ。
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