闇の果ては光となりて
「さぁ、食べて。霧生好きでしょう? オムライス」
舞美は出来たての湯気の立ったオムライスをテーブルに置く。
俺が来る事を見越した上で作ってたんだろうな。
仕方なく、テーブルにつく。
「食ったら学校に戻る」
「えぇ〜寂しいわ」
「試験前なんだよ。今年は進学も控えてるしな」
「霧生は大学なんて行かなくても、おじさんの会社を継ぐからいいんじゃない?」
どうして、そんな風に軽々言えるんだ。
俺の将来を勝手に決めつけんじゃねぇよ。

舞美と一緒になるって決めたのに、こいつと居れば居るほど嫌気が差してきた。
最初は軽い束縛から始まった。
そのうち、俺のやる事にも細かく口出ししてくるようになり、自分の思い通りに俺がやらねぇと、癇癪まで起こすようになった。
こいつが学生の頃は、俺に近づく女に嫌がらせやイジメを始めたり、酷い時には呼び出して暴力まで振るっていた。
そんな女、好きでいられるなれる訳ねぇよな。
俺は舞美の束縛に耐えられなくなり、中学から入っていた野良猫の溜まり場に寝泊まりするようになった。
高校に上がって直ぐに前の総長達の引退が決まり、俺と樹弥が幹部に抜擢された。
総長をやれと指名されたが、舞美の事もあってチームに迷惑を掛けるのが嫌で樹弥に変わってもらった。
樹弥は俺が副総長をやるならと引き受けてくれ、今がある。

舞美は俺が野良猫にいる事も気に食わねぇと口出ししてきたが、そこは譲らねぇと別れを覚悟で告げた。
別れるのが嫌だったのか、舞美は案外あっさりと引き下がり、それまでみたいに俺を束縛しなくなった。
舞美が変わったんだと勘違いしてた俺は、樹弥に指摘されるまで何も気付かずにいた。
舞美は高校卒業後、知り合いの会社に就職し、そこで俺以外の遊び相手を見つけてたんだ
そいつと遊び歩いてるのを、樹弥が知って、早く別れろと教えてくれた。
子供が出来たと聞かされた時に、俺は子供を作る行為に不安を感じて、どんなにせがまれても最後の一線を超える事は無くなってて。
そんな俺が不満で他の男に走ったのなら、別れてもいいと考えてた。
だけど、舞美の俺への執着は消えた訳じゃ無かった。

別れを切り出した俺に、舞美は流産で子供が出来にくくなった私を捨てて逃げるのかと責め立て、 そして家にあった包丁で自分の手首を斬りつけた。
別れないと俺が口にするまで、あいつは何度も同じ事を繰り返し、俺は別れる事を諦めた。
責任を取れと言うなら取ってやる、そんな気持ちで今まで来たが、神楽に出会って俺の気持ちが揺らいだ。
本当に抱き締めたい相手から得られる温もり知ったら、まやかしなんかじゃ物足りねぇんだ。

責任と諦めで、舞美と居る事が本当に正しいのかと自問自答する日々が続き、俺は自分の心を偽る事が出来なくなっていた。
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