相思相愛ですがなにか?
(本物の伊織さんだ……)
私はお兄ちゃんの影に隠れるようにして、こっそりと伊織さんを盗み見た。
センス抜群のストライプの細身のスーツに身を包み、前髪を掻き上げた無造作のショートヘアが品性の良さを感じさせる。
子鹿にも似た人懐こい甘いフェイスは笑うと少しだけ目尻が下がって、子供のようにあどけなくなるが、時折見せる鋭い目線とのギャップが女心をくすぐる。
緊張しているのか顔を強張らせていたが私達の姿を見ると、安心したようにほのかな笑みを浮かべて会釈してくれた。
伊織さんにすっかり見惚れていた私は慌てて会釈を返したのだった。
(どうしよう……)
今更、恥ずかしくなってきた。
あれほど悩んで決めてきたのに、急に自信が風船のようにしぼんでいく。
私の格好、変じゃない?
本当に似合ってる?
許されるのならばメイクルームに走りこんで、今すぐ確認したくなってしまう。
伊織さんと会う時はいつもこうだ。
いつものプラス思考はどこへやら、強気な自分は鳴りを潜め、伊織さんにどんな風に思われるかを終始気にして、借りてきた猫のようにおとなしくなってしまう。
そんな私の様子に見向きもせず、お兄ちゃんは無造作に伊織さんの差し向かいの席に座ると従業員にお茶を催促したのだった。
ぼうっと突っ立っている場合ではないことを思い出し、私もお兄ちゃんに習うようにして席に着いた。
当然、伊織さんの正面に陣取る。