相思相愛ですがなにか?
(ふたりきりだ……)
すっかり手持ち無沙汰になってしまった私は、湯飲みのお茶をゆっくり啜っている伊織さんをチラチラと見てしまうのであった。
何かとうるさいお兄ちゃんが帰ってしまうと、和室は元の静けさを取り戻し、いままで気にも留めなかった春の気配を感じ取れるようになった。
箱庭の中にあるししおどしの軽やかな水音や、風でそよぐ木々の葉音、穏やかな春の日差しは誰もが心に思い描く理想の春の姿そのものだった。
しかし、伊織さんの息遣いひとつも聞き逃すまいと感覚を研ぎ澄ませている私にとって、それは邪魔でしかなかった。
そう、私は春を満喫するためではなく、目の前にこの人と結婚するためにやってきたのだ。
その覚悟と決意のほどが伝わったのか、顔を上げた伊織さんとふっと視線が交わる。
「久し振りだね、月子ちゃん。去年の正月に会った時以来かな」
目が合うと臆面もなく破顔する伊織さんに、何度会いたいと願ったことだろう。
伊織さんが日本にいない3年間は恋焦がれるには長すぎた。