極上御曹司は契約妻が愛おしくてたまらない
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翌日、陽奈子は宿泊するホテルのあるセントジュリアンからバスに乗り、昨日対岸から写真に収めていた首都バレッタへやって来た。
昨日の嫌な出来事は忘れ、今日は気分一新めいっぱい楽しもうと気持ちを切り替える。
バレッタは小さな半島をそのまま利用した要塞都市で、坂や階段がとても多い。
マルタストーンというマルタ原産の石でできた街は、まるでおとぎ話の世界のよう。スリーマから眺めたバレッタがはちみつ色に見えるのは、その石のもつ優しい風合いのせいなのだろう。
陽奈子が中世にタイムスリップしたような路地をゆっくりと歩いていると、五十代くらいの女性が地面に這いつくばっている光景に出くわした。
なにか探し物でもしているのか、いくつか並んだ鉢植えを持ち上げたり、ベンチの下に手を突っ込んだり。立ち上がっては腕を組んで首をひねっていた。
「どうかされたんですか?」
陽奈子が思わず声をかけると、顔を上げた女性は眉尻を下げて困ったように肩をすくめた。
「指輪を落としちゃったの。洗濯物を干していたらスルッと抜けて」