極上御曹司は契約妻が愛おしくてたまらない
いつまでも立っている陽奈子を見かねたか、貴行が声をかける。うしろに店員が椅子を引いて待っているのに気づき、陽奈子はハッとしていそいそと座った。
注文は全面的に貴行に任せ、アペリティフで乾杯する。
「今日の命日って、仕事関係の方ですか?」
昨日、貴行は阿佐美に『ツキシマ海運の社長として手を合わせてくる』と言っていた。
「五年前に亡くなった、うちの航海士」
「そうなんですね」
「海上での事故が原因でね」
そういえば、と思い出す。ツキシマ海運の輸送船とタンカーの事故が、当時盛んに報道されていたのを陽奈子も覚えている。
普通だったら記憶になくても不思議はないが、父親の工場の取引先が関わる事故だったため印象に残っているのだろう。
(あの事故、もう五年も経つんだ)
陽奈子がグラスを置いて、ふとほかのテーブルに視線を投げかけたときだった。
よく見知った、二度と会いたくない人物が少し離れたところにいるのに気づく。