極上御曹司は契約妻が愛おしくてたまらない
気が動転して手に変な汗をかいた。
(今、食事に誘われたの? ……私があの人に?)
呆然と立ち尽くす陽奈子の前から彼の背中が完全に消える。
さっきの会話を何度も思い返してみたけれど、どう考えても誘われたことには間違いがない。
(もしかして、軽い女に思われたの?)
これまでの経験から、嫌な予感が胸をかすめる。
あの人にも陽奈子が簡単に身体を許すような女に見えたのかもしれない。
ここに住んでいるのか旅行なのかわからないけれど、誘えばホイホイとついていくと思われたのではないか。イケメンの自分なら断られるわけがないと。
きっとそうに違いない。
行かないほうがいいと、過去の苦い経験が警告を発する。
また嫌な思いをするのはわかりきっていた。
とはいえ、なにも言わずにすっぽかすのは性格的にできない。きちんと会ってはっきり断ろうと、陽奈子はバレッタ観光を終えたあと指定された場所にやって来た。
時刻は七時十五分。遅刻だ。三階あたりまで吹き抜けになったロビーに彼の姿は見当たらない。