極上御曹司は契約妻が愛おしくてたまらない

卒業後に就職した外資系IT企業では秘書として仕えた役員にセクハラをされ、それが公になるのを恐れた相手に『倉沢くんに誘われたんだ! 私はなにも悪くない!』と先手を打たれ、退職に追い込まれた過去もある。

顔に関しては、とにかくいい思い出がなにひとつない。
貴行の意外性のある言葉が、陽奈子の心に妙に響くのも無理はないだろう。


「陽奈子が本音では誘ってるっていうなら話は別だけど」
「さ、誘ってなんて……!」
「だろう? なら自信をもて」


励ますように背中を軽く叩かれ、これまで持ち続けてきた心の重しが口からポンと飛び出した感覚になる。

不思議なことに身体まで軽くなった気分だ。


「はい。ありがとうございます」


満面の笑みで頭を下げた。

(マルタ島へ来てよかった。貴行さんとこうして話せたのも。第一印象は最悪だったけど、そこまで悪い人でもなさそう)

隣に座る貴行の顔を横目で盗み見て、くすぐったいような気持ちになる陽奈子だった。

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