極上御曹司は契約妻が愛おしくてたまらない
長身でスラッとした体躯は、貴行より線が細い印象。黒縁のスクエア眼鏡の奥は、大きな二重瞼をしているが妙に鋭い。
その鋭さと対照的に、ふんわりとしたパーマヘア。鼻がとても高いせいか、一見しただけでは日本人だとわからないかもしれない。
ここが海外という理由もあるだろう。日本人と遭遇する確率が低いから。
そういえば、とふと思い出す。
貴行は仕事を依頼するためにマルタ島へ来たと言っていたから、彼がその相手なのかもしれない。
貴行と陽奈子は、ここで知り合っただけの仲。互いをいちいち紹介したりしないだろう。
「それじゃ、私はこれで失礼します」
頭をぺこりと下げてふたりに背を向けると、貴行の声が追ってきた。
「陽奈子」
足を止めて振り返る。
「ルームナンバーは?」
「え? あ、えっと八〇一二ですけど……?」