悪役令嬢、乙女ゲームを支配する

 手を振る私に気づきこちらに走って来るリリー。
 お礼を言ってきたロイに、私はウインクで返事をした。

「マリア。わたしも話したいことがあるの。ロイ、ちょっと席を外してくれる?」
「はい。リリー様」

 今度はロイがさっきリリーがいたところまで移動し、私はリリーと二人で向かい合った。
 
「ロイのこと……ごめんなさい」
「う、ううん! もう全然大丈夫よ! リリーが、謝らないで。私だって……リリーに」

 言葉が詰まる。
 リリーに何を言えばいいか、上手く話せない。

「リリー。私も、リリーに謝りたいことがある」
「マリア?」
「私はあの手紙を盗んだの、一瞬でもリリーと疑って……あの後アルと笑うリリーを見て、リリーさえいなかったらって思った」

 リリーは何も言わず、ただ私の言葉に耳を傾け、動揺も怒りもせずにただ私を見ていた。

「大好きなのに、友達なのに、リリーをそんな風に思った自分のことは今でも許してない。本当に、ごめんなさい――でも、アルのことは謝らないわ」

 この時初めてリリーの表情が動いた。
 アルのこと、ずっとどうリリーに謝ればいいか考えていた。
 でも考える程、私は謝ることが正しいのか疑問に思い始めた。

 だって私はリリーからアルを奪ったんじゃない。
 アルは最初から、誰のものでもなかった。

「ふふっ……! わたし、マリアのそういうところが好きよ!」

 女同士の男を巡っての醜い争いに自分が初参戦することになるかと思いきや、リリーは私の言葉を聞いてプッと噴き出す。

「マリア、ごめんね。わたしも貴女に嘘を吐いていたの――わたしの好きな人は、アルじゃないわ」

< 106 / 118 >

この作品をシェア

pagetop