悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「おい、マリア!」
また私を呼ぶ声がする。今度は誰? と言いたいところだが正体はもうわかっている。
「ノエル。どうしたの? わざわざこんなとこ――あ、ハロルドもいたのね」
振り返ると既にいることがわかっていたノエルの横にもう一人、ムスッとした顔のハロルドが立っていた。
「マリアがここにいるって聞いてな。その……昨日は悪かった。お前のことよくわからないまま、勝手なこと言って」
「あらあら。最初の時の生意気ノエルはどこ行ったのよ。今日は素直で可愛いわね」
「可愛いって言うな! むかつくのは相変わらずだな!」
「ふふ。シュークリーム、ありがとね。嬉しかった。さすがに量が多すぎたけど」
お見舞いに作ってくれたシュークリームのお礼を言うと、ノエルは照れくさそうにして後ろ頭を掻きそっぽを向く。
その隣にいる未だ無言なハロルドを見上げると、ちょうどハロルドもこちらを見ていた。
「――俺は謝らない」
そして一言だけそう言うと、すぐに目を逸らす。
「何のことを? 暴言? 引きずるように私を連行したこと? どれもいつものことだから謝りなんて今更いらないわよ!」
「……何だと!? わざわざここまで来てやったというのに」
「大体謝る気ないなら何で来たのよ。実際気にしてくれてたんでしょ。昨日も私のこと必死に探してくれてたらしいじゃない。まぁそこで騎士団長でありながらアルより先に私を見つけられないところがハロルドの可愛いところっていうか。必死過ぎて空回りなのよね」
「お前を探したのは任務だっただけだ。死人を出すなんてあってはならない。――はあ。俺はこれからもこの減らず口を聞くことになるのか」
今サラッと私がこのまま城にいること受け入れてたけど――最後まで分かりづらいツンデレなんだから。
――ていうか私、ラナおばさんに用があるんだった。
花畑に来てから次から次へと誰かが現れるもんだから、本来の目的すっかり忘れるところだったわ……