悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「やあ。今日も綺麗だね。ラナ」

 あの日から、サムは毎日のようにあたしのもとへやって来ては、花を買って帰るようになった。
〝また来るよ〟の〝また〟が早すぎるだろう、と思いながらも、あたしはだんだんサムと仲良くなっていき、サムとおしゃべりをするこの時間がいつの間にか楽しみになっていた。
 サムはいつも小綺麗な格好をしているので、普段なにをしているのかと職業を尋ねると、「ただいろんな国を回っている旅人」と答えた。いろんな場所に知り合いがいるので、仕立てのいい洋服を安く買ったり、時にはもらったりしている、と。
 
 年齢は二十六らしい。思ったより年上なことに驚いた。見た目だけだと、同い年くらいにも見える。
 最初は赤いグラジオラスを売りつけてしまうほどサムへの印象はよくなかったが、今はすっかり仲良しだ。そうなった一番の理由は、〝サムも花が大好き〟ということがわかってからだった。
 サムは花に対するたくさんの知識を持っていた。今まで両親以外とこんなに深く花について語り合ったことがなかったあたしは、サムとのおしゃべりが楽しくて、とにかく新鮮だったのだ。

「ラナの店で売られている花はいつ来てもどれも綺麗だね。丁寧に世話をしていることがよくわかるよ」
「ふふ。それを聞いたらきっと父と母も喜ぶわ。花は愛情を注げば注いだぶん、きれいな姿になってあたしたちに笑顔を与えてくれる。大事に扱うのはあたり前のことよ」
「ラナって、本当に花が大好きだよね。花の話をしているとき、いつも瞳がキラキラしているよ」
「ええ、大好き! いつか、自分だけの花畑をつくるのがあたしの夢なの!」
「……花畑?」
「そう。今お城の庭に、大きな花畑をつくっているという噂を聞いたわ。完成したら、いつか見てみたい……そして、あたしも小さくていいから自分の花畑をつくって、毎日その花を見ながら過ごしたいわ」

 今も「十分、花に囲まれた生活をしているけど」と笑いながら言うと、サムはなにかを考え込んでいるようで黙ったままだ。

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