悪役令嬢、乙女ゲームを支配する

「……ラナ。ごめん。僕は君に嘘をついていた。僕は旅人なんかじゃなくて、城の花畑の管理を任されている、れっきとしたこの城の使用人だ」

 ……城へ入ったときに、その事実には気づいていた。サムがいつも綺麗な服を着ていたこととも辻褄が合うから。

「どうして、そんな嘘をついたの?」
「城の人間と知ると、ラナは僕にいらない気を使うかもしれないだろ?……僕は、素の君と接したかったんだ。いつも笑顔で楽しそうに花を売る、そのままの君と」

 たしかに、もしサムが城の人間だと知っていたら、使用人といっても勝手に住む世界が違うと決めつけ自分の中で線を引き、今みたいな関係にはなれなかっただろう。
 でも、どうしてそこまでしてサムはあたしと仲よくなりたかったのか。それは謎のままだ。

「じゃあ、早速だけど、僕が一番好きな花を紹介するよ」

 サムはそう言うと、その場にしゃがみ込む。そしてあたしにもしゃがむよう手で合図した。言われた通りサムの隣にちょこんとしゃがむと、あたしたちの目線の先には、さっき見つけた小さな青い花が、風でゆらゆらと揺れている。

「これが、僕の一番好きな花」
「……この、小さな花が?」
「ああ。名前もわからない、誰にも管理されずに自然に咲く花」

 何種類もの花を見てきたサムが、どんな花よりこの小さな花を好きだと言う。この花に、サムはほかとは違う〝なにか〟を見いだしたのだろうか。
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