悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「……緑の中で強く美しく、可憐な姿をひっそりと主張する。見つけた瞬間笑顔になる……君みたいだろう?」
「……あたし?」
「ああ。街の通りで君を見つけたとき、この花を初めて見たときと同じ感覚がした。そして……ラナのことも、あたり前のように好きになった。ひと目惚れだったのかもしれないな。実は最初に話しかける前も、何度も店の前を通っていたんだ。話しかけたときはあれでも心臓バクバクだったんだよ」
眉を下げて笑うサム。突然の告白に、あたしは思わず目を見開いた。そんなに前からサムはあたしのことを? 初めて会ったときだって、あたしの目には余裕そうに映っていたのに、実際はそう見せていただけだったなんて。
……どうせ花に例えられるなら、薔薇とか、コスモスとか、もっとかわいいものがいいって思ってたけど……サムの一番好きな花って言われたら、それに勝てるものなんてないじゃない。
「さっき、花を避けながら歩いている君を見て、僕の君への気持ちはもっと強くなった。どんな小さな花でも大事にする君と――この花畑をつくっていきたい」
「……それって」
「ラナの夢を、僕の夢にしてもいいかな」
サムはあたしをその場に立たせると、その場で片膝をつき、ポケットからシロツメクサでつくられた指輪を取り出し、あたしの左の薬指にするするとはめた。
「僕と、結婚してください」
まだ出会って間もない相手。それにずっと街で平凡に過ごしてきたあたしが、サムと結婚したら城での生活になってしまう。
突然の環境の変化に、あたしも、両親も、ついていけるだろうか。大好きな店から離れるなんて、耐えられるだろうか。たくさんの不安が頭の中を駆け巡る。
――でもあたしは、そんな不安も一気に吹き飛ばしてしまうほど、サムと過ごす未来に希望を感じていた。なにより、どうしようもなく好きになっていたのだ。
こんな小さな花を一番好きだという、彼のことが。
「……はい」
うれしさでこみ上げてきた涙を浮かべ、精いっぱいの声でそう応えると、サムはその場で思いきりあたしを抱きしめた。ふわりと香る花の匂い。彼に抱きしめられると、まるで花畑の真ん中にいるみたいだ。
「どんな花も、ずっとここで一緒に守っていこう。――大好きだ。ラナ」
――こうして、あたしはサムと一緒にこの花畑をつくり、守っていくと決めた。いつまでもふたり一緒に。仲よく手を取り合って。
そんなあたしたちを見守るように、今日も野原の緑の中でひっそりと、青い花は咲いている。
END


