愛を捧ぐフール【完】
 その当時の女子が結婚出来る14歳まで、クリストフォロス様は足繁く我が邸に通ってくれた。

 まだまだ子供で、庭園ではしゃぐ私をクリストフォロス様は辛抱強く毎回兄と共に相手にしてくれる。

 クリストフォロス様といる時は大体必ず誰かが付き従っていたが、一度隠れんぼをしている最中、彼と二人きりになった時があった。

「ねぇ、クリストフォロス様。隠れんぼするなら2人で逃げるより、別々に逃げた方がいいのではないの?」

 鬼であるお兄様から逃げようとした時に、私はクリストフォロス様に手を引かれた。
 そのままどこに連れて行かれるか分からずに、私はお兄様に聞こえない位置でクリストフォロス様に尋ねた。

「うん。ちょっとね」

 言葉を濁したクリストフォロス様はお兄様を外に置き去りにして勝手の知る私の邸の中に入り、使用人達に遭遇することなく近くの客室へと入る。
 そして後ろ手で扉を閉めた彼が、いつになく真剣な表情で私を見下ろした。

「エレオノラ」
「クリストフォロス様?」

 私の名前を呼んだクリストフォロス様の薄氷色の瞳が艶やかなものに変わる。いつもの穏やかな雰囲気とは違って、少し妖艶さを纏った彼は王太子様というより、1人の男の人だった。
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