Love Eater Ⅲ



それでも、使いが来た時点ではすでに手遅れと言えるものであったのだ。

領主の屋敷は馬車でも半日はかかる距離にある。

使いがここにたどり着く間病状が待ったをかけてくれているはずがない。

すでに昏睡状態であったのだ。

夜音の力で一瞬で出向こうとすでに命の灯は尽きているころだろう。

出向いたところですでに事切れているようではこちらも成す術がない。

いくら夜音でも死人を生き返らすなんて奇跡は起こせないのだから。

横暴で有名な領主だ。

息子を助けられなかった夜音にどんな言いがかりをつけるかなんて知れている。

だからこそ行かせまいと必死に引き留めたというのに。

「……無駄な事なんてないわ」

「っ……」

「ううん、ここで揉めているこの瞬間がまさに無駄となっているの。確かに、間に合わないかもしれない。それでも、間に合うかもしれない。今、一分一秒でも早く動けば助けられるかもしれない」

「っ……助けられないって……散々同じような状況を経験している僕たちが一番わかっていることじゃないですかっ…。どうして……っ……どうしてあなたは自分の痛みを顧みず……」

「……時雨、」

「どうして……なんでそこまで他人を助けようとするんですっ!?」

焦燥感。

口惜しさと、もどかしさと、歯がゆさと。

どうして夜音はこうもお人好しであるのかと。

どうして自分のこの滾る感情が伝わらないのかと。

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