Love Eater Ⅲ


きっとそれが百夜と花鳥の在り方で2人にしか分からぬ意思の疎通。

そこまで分かってわざわざ踏み込む理由もなく、今度こそと匂いを辿って百夜に背を向け歩きだす。

そんな背後から「気をつけて、」なんて言葉がかけられ、何の気なしに振り返ってみたのだが振り返った時にはすでに百夜の姿は見えなくなっている。

今の今までそこに居たのに。

そんなことを思えど不思議と不安はない。

見渡しても周囲にあるのは果てのない闇ばかりであるのに。

どうしてか闇というには明るく温かく、妙に居心地が良く感じてしまうほどなのだから。

だからこそソルトの行動も迷いはなく、直ぐさま己の目的に意識を戻して歩みだす。

匂い任せの道なり。

視覚も聴覚もあてにならぬ場所故にまさに嗅覚頼みの散策となってしまう。

それもまた不思議なもので、辿れる道は左右に限らず上下まで。

決して目に見えての上下階があるわけでなく、ただ匂いを辿るままに「上だな」「下だな」と思うだけで緩やかに浮上したり沈下したり。

もしこれが目に見えての道なりであるならかなり複雑な迷路であったに違いない。

それだけ百夜の意識の深層というのは複雑なのか、とソルトなりの解釈をしながら思わず苦笑を漏らした頃合いであった。

それまで延々と続く暗闇ばかりであったというのに。

いや、今もほぼ変わらぬ暗闇の景観のほんの一点の変化。

久方ぶりにあてになった視覚が捉えるのは暗闇にポツネンと浮かぶドアノブで。

辿ってきた甘い香りもそちらの方へと誘いをかけてくる。

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