オトナだから愛せない




「あ、あの大丈夫です。えーと、待ち合わせしてるだけなので」

「あ、そうでしたか。ここで待たれてる方が珍しかったのですみません、思わず声をかけてしまいました」

「こちらこそすみません、心配していただきありがとうございます」

「いえ、お綺麗な方がこんな時間にひとりなんて危ないので気をつけてください」

「綺麗だなんてそんな」

「お綺麗ですよ。思わず見てしまうくらい」




年上の男の人に褒めてもらえた。これなら皐月くんも褒めてくれるかな。




「ありがとうございます!あっ、」

「あ、大丈夫ですかっ!!」




お礼をしてお辞儀をしようとすれば、ヒールが溝に引っかかり倒れそうになる。慣れない物を履くとこうなるから厄介だ。




「すみません、ありがとうございます」

「いえ、転ばなくて良かったです」




転びそうになったところをスーツのイケメンに支えてもらい、地面に顔面強打という恐ろしい事件を回避することができた。
この人、皐月くんより華奢だななんて。私の脳はどうしたって最終的には皐月くんのことばかりで恥ずかしくなる。




「胡桃!」

「あ、皐月、くん!」




と、聞き慣れた甘い声音に名前を呼ばれた。今の今まで皐月くんのことを考えていた私は本人の登場に思わず顔が熱くなる。



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