オトナだから愛せない
「華井専務、お疲れ様です」
「なにしてんだ?」
「私はこれから帰るところで」
つかつかとこちらに歩いてきた皐月くんは私ではなく、私を助けてくれたスーツの男性に言葉を投げた。
するりと肩を抱かれ、私は皐月くんの後ろに移動させられる。
「これ、俺のだから」
「大変失礼致しました。そちらのお嬢さんが倒れそうになったのを助けただけです。なにもないのでご心配なく」
「そうか、じゃあもう帰れ」
「はい、失礼させていただきます」
ぺこりと頭を下げたスーツのイケメンは、にこりと笑うと踵を返して歩いていった。
どうやら皐月くんの知り合いらしい。そういえば「華井しか残っていないと思いますが」って、言っていたっけ。
て、それどころではない。
「え、ちょっと皐月くん!今の人、皐月くんの知ってる人!?」
「それがどうした!そんなことより、お前なんだよその格好」
「そんなことじゃないよ!会社の人でしょさっきの人!」
まるで会話が噛み合わない。会社の人にあんなこと言って良かったのかこっちは気が気じゃないっていうのに。