推しが私に噛みつきました。
「えっ」
と思ったときには、もう遅くて。
先輩は、私のほっぺたに手を添え、笑っていました。
その笑みの意味がよくわからないまま、うるさい心臓の音を聞こえないふりをします。きっといまの私は、オーブンから出したばかりのカップケーキより、熱いと思います。
「……意味、わかるかな?」
意地悪そうに笑った先輩は、そっと私の頭をなでました。
「優しくしても、なびいてくれないんだ?」
先輩の言葉に、思考が追いついてくれません。
「……あーぁ、思ってること言っちゃおうか」
ぼやいた先輩は、私の目を真っ直ぐと見据えていました。
まわりの部員たちは、すぐ近くに先輩がいる、というこの状況だけで、もう……アウトみたいです。