推しが私に噛みつきました。



「えっ」



と思ったときには、もう遅くて。



先輩は、私のほっぺたに手を添え、笑っていました。



その笑みの意味がよくわからないまま、うるさい心臓の音を聞こえないふりをします。きっといまの私は、オーブンから出したばかりのカップケーキより、熱いと思います。



「……意味、わかるかな?」



意地悪そうに笑った先輩は、そっと私の頭をなでました。



「優しくしても、なびいてくれないんだ?」



先輩の言葉に、思考が追いついてくれません。



「……あーぁ、思ってること言っちゃおうか」



ぼやいた先輩は、私の目を真っ直ぐと見据えていました。



まわりの部員たちは、すぐ近くに先輩がいる、というこの状況だけで、もう……アウトみたいです。
< 4 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop