推しが私に噛みつきました。



「お前、なんか、甘い」



囁いた先輩は、私の手を持ち上げると……がぶりと、指に噛みつきました。



「っ、」



ぴりっとした痛みと、ジンとした苦味がじわじわと広がります。



「……指輪。独占欲」



知っといて、バカ。そう言い残すと、先輩は走り去っていきました。



スイーツ部に来て、スイーツも食べずに。



……それに、どういうことでしょう。指を、か……噛むなんて。



調理のために手を洗っていたから、衛生的には普段よりもしっかりしています。だけど、やっぱり……バイ菌がいるかもしれなくて、不安です。



それに、はじめましての私なんかを可愛いって言ったり、突然噛みついたり……なんだか普通とズレているような気がします。



そんな先輩だけれど、後ろ姿をみつめて、やっぱり……かっこいいなと思ってしまったのです。



部長さんがたくさん謝りながら私に駆け寄ってくれたけれど……なんだか、気分は上の空です。



そこで、ひとつだけ思いました。



『先輩』と呼ぶことができなかったな、と。
< 5 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop