推しが私に噛みつきました。
「お前、なんか、甘い」
囁いた先輩は、私の手を持ち上げると……がぶりと、指に噛みつきました。
「っ、」
ぴりっとした痛みと、ジンとした苦味がじわじわと広がります。
「……指輪。独占欲」
知っといて、バカ。そう言い残すと、先輩は走り去っていきました。
スイーツ部に来て、スイーツも食べずに。
……それに、どういうことでしょう。指を、か……噛むなんて。
調理のために手を洗っていたから、衛生的には普段よりもしっかりしています。だけど、やっぱり……バイ菌がいるかもしれなくて、不安です。
それに、はじめましての私なんかを可愛いって言ったり、突然噛みついたり……なんだか普通とズレているような気がします。
そんな先輩だけれど、後ろ姿をみつめて、やっぱり……かっこいいなと思ってしまったのです。
部長さんがたくさん謝りながら私に駆け寄ってくれたけれど……なんだか、気分は上の空です。
そこで、ひとつだけ思いました。
『先輩』と呼ぶことができなかったな、と。