推しが私に噛みつきました。



先輩は、さっきと同じようなセリフを囁きます。



さっきと違うのは……。



「岬」



呼びすての、甘い甘い声です。



「……えっ」



ぽぽぽっと火が吹きでた気がします。



「……また、明日」



先輩はそう言うと、手を振りました。



まだ帰らないのでしょうか?



昇降口で上靴を履いて、立っている、私がここに来たときのままです。



「さようなら」



また明日という言葉に、“?”を浮かべながら、私は前に進みました。



数歩歩いてから、振り返り。



『私はいつも、先輩を目で追っています。知ってますか』



そう宣言をしてしまいたかったのに。



この気持ちが恋なのか、ただの推しているということなのか、わからないけれど……無性に伝えたくなったのです。



……しかし、その言葉は空気に溶けてしまいました。
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