推しが私に噛みつきました。
ロッカーに背中をあずけた状態でしゃがみこみ、顔をおおっている先輩がいたからです。
大きな男らしい手で隠れきれなかった耳は、まっかっか。
どういう意味なのでしょう。先輩。教えてください。
「先輩?」
声をかけると、先輩は急に顔を上げました。
勢いのついた動きに、思わずのけぞってしまいました。
「……先輩……」
「岬……えっと、その」
見たこともないくらい、焦ったような声。
「……っ、バレた」
そう言って頭をガシガシとかく先輩は……いつもよりもずっと大人みたいで、ドッと心拍数が増しました。
高校生。男子。そんな枠から、ひとりだけはみ出てしまったかのようです。