15年目の小さな試練
「じゃあ、弾いてごらん。さん、はい」

 ドーレーミーファーミーレード♪

 そこまで弾いて、次の音に入った瞬間、晃太くんの手も動いた。

「……え?」

「続けて弾いて」

 言われるままに、続きを弾くと、わたしの『ミーファーソーラーソーファーミー♪』に合わせて晃太くんが『ドーレーミーファーミーレード♪』と弾く。

 輪唱だ! すごい!

 とても単純な音楽のはずなのに、音が重なって和音になると、一気に華やかになった。

 わたしがつられそうになってリズムがおかしくなっても、晃太くんはピッタリ合わせてくれた。

 ひと足先にわたしが弾き終わり、晃太くんも最後のフレーズを弾き終わる。

「晃太くん、すごい!」

 振り返って、晃太くんを見る。興奮のあまり、声が弾む。

「ハルちゃん、上手だったよ」

 晃太くんが弾く難曲とは大違い。とってもとっても簡単な曲。ピアノを習っていない小学一年生が学校で習って弾くような曲。

 だけど、とても綺麗で、すごく楽しかった。

「もう一回弾く?」

「うん!」

「じゃあ、……さん、はい」

 晃太くんの掛け声に合わせて、わたしはピアノの鍵盤を押した。



 三回、一緒にカエルの歌を弾いてから、晃太くんは帰って行った。

「それじゃあ、おやすみ。また明日ね」

「うん。本当にありがとう!」

「いい夢を」

 晃太くんはそう言って優しい笑みを浮かべると、わたしの頭をそっとなでた。


    ☆    ☆    ☆

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