15年目の小さな試練
 その後、程なくタイムリミットが来て、カナはスマートフォンとパソコンをお義母さんまに取り上げられて、通話は終了。

 そして、その少し後に、本当に晃太くんが家に来たものだから、心底驚いた。

「寝る前に一曲、ピアノでもどう?」

 大学でもずっと付き合ってもらっているのに、こんな時間までと恐縮していると、晃太くんは、

「どうせ家でも弾いてるから、大丈夫。聴いてくれる人がいる方が弾きがいがあるんだけど、ハルちゃん、少しだけ付き合ってくれる?」

 そんな優しい言葉と一緒にふわりと笑った。

「えっと……じゃあ、お言葉に甘えて」

 その後、寝るまでの二十分くらい、晃太くんが練習中だという曲を聴かせてもらった。

 あえてリクエストを取らずに自分が練習している曲を弾いたのは、きっと、わたしに気を使わせないようにとの晃太くんの優しさだと思う。
 そして、練習中と良いながらも、晃太くんのピアノは本当に素敵だった。

 わたしがあんまり、すごいすごいと言っていたら、

「ハルちゃんも弾いてみる?」

 と、晃太くんが席を立った。

「え? 無理だよ、わたし、ピアノ弾けないもの」

 小さいころ、晃太くんのピアノを聞かせてもらって、とっても素敵で憧れて、パパに頼んで習わせてもらったけど、すぐにやめてしまった。

 晃太くんも知ってるよね?

「大丈夫。学校で、鍵盤ハーモニカとかやったでしょ?」

「……うん」

 随分と前だけど、確か、低学年の時に教えてもらった。さすがに、ドレミがどれかくらいは分かる。

「カエルの歌、弾ける?」

「え?」

「ほら、かーえーるーの、うーたーが♪ って、あれ」

「ドレミファミレド?」

「そうそう!」

 晃太くんはわたしをピアノの椅子に座らせると、横から、右手だけでカエルの歌を弾いてくれた。

「これなら、弾けそうでしょ?」

「うん」

 さすがに、これくらいなら弾けると思う。
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