15年目の小さな試練
「授業中に具合悪くなったのかな?」

「……はい」

 胸の音を聞かせてね、と先生は服の間にそっと聴診器を滑り込ませた。

 と同時に、ベッド周りのカーテンが閉められて田尻さんたちが見えなくなる。

「大丈夫。あっちで井村さんがここに来る前の陽菜ちゃんの様子を確認して、ちゃんと次の授業に間に合うように帰してくれるから」

「……はい」

 先生は真剣に胸の音を聞く。だけど、良い音がするわけがない。体調の良いときですら、わたしの心臓はかなりおかしな音がするのだから。

 だけど、先生もそれは承知しているからか、胸の音については何も言わなかった。続いて、脈も取られたけど、それにもコメントはなかった。

「今日はもう授業は無理だね。家の人に来てもらおうか。それまでは寝ているといい。吐きそうになったら、呼ぶんだよ? 間に合わなかったら、ここに」

 と枕元の容器を示し、先生はわたしの背中をさすった。

「は…い」

 横になっているのに、とにかく怠くて、そして息苦しくて仕方なかった。

 先生と入れ替わりに、田尻さんと幸田くんがカーテンの中に入って来た。

「私たちはもう行くけど、牧村さん、ゆっくり休んでね」

 田尻さんが心配そうな顔で言う。

「……ん。いろいろ…あり、がと」

「ハルちゃん、またね。早く元気になってね」

 幸田くんがわたしの頭をそっとなでた。

「…あり…がと。……また、ね」

 二人が出て行き、わたしは晃太くんに連絡していないのを思い出した。

 ……わたしの鞄。ベッドの下かな。

 手荷物は大抵、籠に入れてベッドの下に置かれているから。
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