15年目の小さな試練
「どうしました? ……っと、陽菜ちゃん? 大丈夫!? えっと、取りあえず、そこのベッドに寝かせよう。井村さん!」

 先生が奥にいるらしい看護師の井村さんを大声で呼んだ。

「はい! すぐ行きます」

 ここの医務室はお医者さんと看護師さんの二人体制。入学前にも挨拶に来たし、入学後、既に何度もお世話になっている。

 そんな大袈裟にしなくても大丈夫ですと言いたいのだけど、声にならなかった。

 心臓がどうかした訳じゃない。だから、少なくとも救急車を呼んでもらうような事態にはならないはず……。

 先生に身体を支えられて、ベッドに身体を横たえられる。
 急ぎ足で奥の相談室から出てきたらしい井村さんが靴を脱がせてくれた。

 布団をかけられた後、指先に酸素濃度計を付けられた。

「血圧と体温も測って」

 お医者さんが常駐しているだけに、まるで病院の処置室みたいで、なんだか居たたまれない。腕に血圧計を巻き付けられながら、

「……あの、…大丈夫、です」

 と絞り出すように言うと、

「陽菜ちゃん、全然、大丈夫じゃないでしょ。顔、真っ青だよ。後、ほら、バイタルも良くない」

 と言う。

「酸素濃度も低いし、血圧もかなり下がってる。これは結構つらいでしょ。気持ち悪くない?」

「……少し」

「吐きそう?」

「……大丈夫」

 と言うか、田尻さんと幸田くんにこんな姿を見せたくない。

 だけど、大丈夫だと言ったのに、井村さんは枕元に容器を用意するし、先生はわたしの身体を横向きにする。……吐いた時に喉を詰めないように。
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