15年目の小さな試練
「君は?」

「あ、大学院二年の広瀬晃太です。陽菜ちゃんの義理の兄です。医務室にいると聞いて、迎えに来ました」

「そうか。それは良かった。……この状態だと、今はまだ動かせないけど、治まったら病院に連れて行くか、早めに帰った方がいいと思う。家に電話してくれるかな?」

「はい、分かりました」

 耳鳴りの向こうで、晃太くんの声が聞こえて来る。

 晃太くんも、4限目、授業があったんじゃなかったかな。そんな事していたら間に合わないよ、そう言いたいのに、言葉にはならなかった。



 その後、ようやく嘔吐が治まり、当てられた酸素マスクで一息ついていたら、なんと夜勤明けで家にいたママが迎えに来てくれた。

 病院に行くと言われたけど、大丈夫だと何とか断った。変な動悸も不整脈もなかった。ただ疲れから来る体調不良だったから、一晩寝ればそれで治まると思う。
 幸い、今日は金曜日。明日、土曜日にゆっくり休めば、日曜日には十分、動けるようになっているはず。

 それに今はもう、息苦しくて、ただひたすら気怠いだけ……。

「もうしゃべらなくていいよ。しんどいでしょ」

 ママはわたしの頭をなでると、先生の方を向いて何か話し始めた。

 ……眠い。

 ……ああ、そうだ。
 晃太くんに、……授業行ってって、言いそびれてしまった。

 今、何時だろう……。
 まだ、間に合う、かな……。

 そんな事を思いながら、わたしの意識はブラックアウトした。
< 111 / 341 >

この作品をシェア

pagetop