15年目の小さな試練

ハルちゃんの病気

 金曜日、お昼を一緒に食べ、三限の教室まで送っていった時には元気だったハルちゃんが、三限の終わりに迎えに行くと、具合が悪くなって医務室へ行ったと言われて驚いた。

「そうですか、広瀬くんの妹さんでしたか。それは心配ですね」

 俺自身も一年生の時に同じ授業を受けていた。先生には、今でもたまに英文の読解でお世話になっている関係で顔見知りだ。

「本当に。今から様子を見に行ってきます」

 先生も俺も心配だと言いつつも、自分の足で歩いていたと言うので、そこまで深刻には捉えていなかった。

 その考えがとんでもなく甘かったと思い知るのは、それからすぐ後のことだった。



「ハルちゃん!?」

 医務室のドアを開けると、ベッドの上で医者と看護師の二人がかりで介抱されるハルちゃんがいた。

「大丈夫!?」

 ハルちゃんは真っ青な顔で、看護師さんに背中をさすられ、横になったまま激しく吐き戻していた。
 嘔吐が治まった瞬間、先生がハルちゃんの口元に酸素マスクを当てて呼吸を助ける。それだけとっても、ハルちゃんの体調がとても悪いのは見て取れた。

「君は?」

 ハルちゃんから目を離さないまま、先生が俺に聞いた。

「あ、大学院二年の広瀬晃太です。陽菜ちゃんの義理の兄です。医務室にいると聞いて、迎えに来ました」

「そうか。それは良かった。……この状態だと、今はまだ動かせないけど、治まったら病院に連れて行くか、早めに帰った方がいいと思う。家に電話してくれるかな?」

「はい、分かりました」

 激しく調子の悪そうなハルちゃんの様子は気にかかるけど、先生と看護師さんが付いている今、俺の出る幕はない。
< 112 / 341 >

この作品をシェア

pagetop